ハーフトーンについて(センターPU仕様等)
ピックアップの巻き方向と磁極のところで話しましたが、シングルコイルのピックアップ(PU)を2つ、並列(パラレル)に繋ぐものがハーフトーンですが、これについてちょっとマニアックなお話します。 |
ストラトキャスターのピックアップ(PU)配線を図1に、スイッチの動作を図2に示します。スイッチは元々、3つのPUをそれぞれ単体で鳴らす設計でしたが、その構造上、中途半端な位置に固定すると「ショーティング」といって2つのピックアップが同時に接続されてしまいます(但しハムバッキングのように出力が増強される直列つなぎではなく、並列つなぎ)。このミックスサウンドに着目したのがエリック・クラプトンでして、今やハーフトーンはエレキギターの常識となり、ストラトのスイッチはは5ポジションが当たり前になっています(但し接点は3ポジションと同じ。中間ポジションでもレバーが固定できるようになっただけ)。この話はいろんなサイトで紹介されていると思います。 |
本題はここからですが、市販の3シングルピックアップギターのうち、真ん中(センター)のピックアップがどうなっているか調べてみました。元々ストラトはハーフトーンを前提に作られてはいませんので、古いストラトはセンターのピックアップも他2つと同じ巻き方向、同じ磁極です。でも図3のようにセンターPUを逆巻き・逆磁極(Reverse wind, Reverse polarity、略してRwRp)にすれば、ハーフトーン時にノイズ除去(ハムキャンセル)効果が期待されます。例えばフェンダー・ジャパンのストラトの高級機種に搭載されている「テキサス・スペシャル」はセンターのみRwRpです。また多くのHSHギター(2ハムバッキングでセンターのみシングル)の場合、図4のようにハーフトーン時はハムキャンセル仕様となる組み合わせにしています(アイバニーズS540しかり、SG-T2しかり)。 ところがストラト使いの大御所(エリック・クラプトン、ジェフ・ベックetc)が使用するストラトについてはセンターPUはRwRpではないようです。スティーヴ・ルカサーのEMGも同様です。技術的にはRwRpを作ることは何も難しくないのに何故でしょう? 実はこれらのPUは皆、ローノイズ、ノイズレスを売りにしています(Lace Sensor、Vintage Noiseless、EMG)。RwRpを販売したら、自らの商品価値(ローノイズ)を否定することになります。海外のサイトをいろいろ調べましたが、どうやらそれだけの理由のようです。まあ対症療法ではなく原因療法をしているとも言えますが。 市販のブライアン・メイのコピーモデルも3つのPUのうち1つ(リアらしい)をRwRpにしているものがあるようですが、当の本人使用機(Red Special)については情報は見当たりません。またPUはストラトと同じ3シングルですが並列(パラレル)ではなく直列(シリーズ)つなぎです。そのことが広く知られるようになったのは割と最近のようです。ブライアン本人、意図的にストラトと差別化した訳ではなく、直列しか思いつかなかっただけのようです。ちなみにロングセラーだったグレコのコピーモデルも、発売当時ドンズバコピーといわれたKidsのモデルも最初はパラレルだったそうで。彼のギターがハムバッキングのような太い音が出せるのもシリーズ接続の為のようです。但しシリーズにすると巻き数が増え、これに起因して高音域が劣化します。彼がトレブルブースター(?)なるものを愛用するのもそれを補う為でしょうか? |
参考までに図5にブライアン・メイ使用機(Red Special)の配線を示します。磁極は全部Nが上かもしれませんし、3つのPUの配線順も違うかもしれませんが、ほぼこれで間違いないと思います。各PUについて、入-切(バイパス)だけでなく位相(正相、逆相)が切り替えられるようになっています。回路を見るとごちゃごちゃしていますが、PUの接続状態がスイッチのレバー位置によって視覚的にわかりやすいのが特徴です。尚、自作の際はセンターかリアPUをRwRpにしたほうがハムキャンセル効果が確認できて楽しいでしょうね。 追記:ハムキャンセル仕様のストラトのセンター(ミドル)PUを「逆位相・逆磁極」とか「逆巻き・逆位相」とか書かれている方がいらっしゃいます。「Reverse wind, Reverse polarity」ですので「逆巻き・逆磁極」が適切だと思います。音信号は逆相ではなく同相です。ノイズ(ハム)は逆相になりますので間違いとは言えないのですが、位相の定義について誤解を招く表現だと思います。専門書の最高峰であるはずのR社の「ピックアップ・ブック」ですら「逆位相・逆磁極」と平気で書いています。これでは「フェイズアウト(out of phase)」と混同してしまいます。前述のピックアップの巻き方向と磁極を読めば納得して頂けると思います。 |